Diameter and dispersibility controls of Cu …?b 1/15 Figure 1. An XRD pattern of Cu−Sapo. Figure...
Transcript of Diameter and dispersibility controls of Cu …?b 1/15 Figure 1. An XRD pattern of Cu−Sapo. Figure...
4B11
粘土のミクロな凝集状態による銅ナノ粒子の粒径・分散性の制御 1中央大学理工,2中央大院理工,
○宮川雅矢1,渋澤朱音2,西尾謙吾1,田中秀樹1
Diameter and dispersibility controls of Cu nanoparticles
by microscopic aggregation of clay ○Masaya Miyagawa1, Akane Shibusawa2, Kengo Nishio1, Hideki Tanaka
1 Faculty of Sci. and Eng., Chuo University, Japan 2 Graduate school of Sci. and Eng., Chuo University, Japan
【Abstract】Cu nanoparticles (NPs) have recently attracted much attention due to their
optical, catalytic and electric properties. Their syntheses, however, have required hazardous
reducing agents and multistep procedures. It has also not been achieved yet to control the
diameter and the dispersibility. Here, we report a environmentally-friendly synthesis of the
diameter- and dispersibility-controlled Cu NPs on saponite, a layered clay mineral by
photoreduction method. The diameter could be controlled simply by [Cu2+]. In contrast, the
dispersibility could be controlled by the size of saponite aggregates without changing the
diameter of the Cu NPs: The whole solution was dispersed stably at low [Cu2+], while it was
flocculated at high [Cu2+]. Using this flocculates, a Cu NP film was also prepared, where Cu
NPs were not aggregated. Therefore, the present study revealed that the combination of the
photoreduction and clays was a novel synthetic method to control the diameter and the
dispersibility of the Cu NPs.
【序】Cu ナノ粒子(NP)は Au, Ag のような表面プラズモン共鳴(SPR)を示し,か
つ安価であるため,表面増強ラマン効果や金属増強発光といった増強分光の他に,太
陽電池や触媒,導電性インクへの応用など,幅広く注目を集めている.その合成には
化学還元法が用いられてきたが過激な還元剤が必要で,Cu NP は酸化されやすいとい
う問題もあった.これに対して光還元法は,たとえば低級アルコールを犠牲剤とする
温和な NP 合成法である[1].しかし,どちらの手法でも,NP の粒径制御と安定な分
散には保護剤が必要で,これが NP の触媒活性を大きく低下させることが最近わかっ
てきた[2].そこで,保護剤を使わずに吸着媒上に NP を合成する試みがおこなわれて
きたが,保護剤なしでは NP の粒径制御は困難であるという問題があった.
我々は,金属イオンを還元後に吸着させる従来の方法[3]では還元時の核成長の制御
が困難であるため,吸着媒上での還元が重要であると考えた.そこで,金属イオンを
よく吸着する層状粘土鉱物に着目した.その一種であるサポナイト(Sapo)では二次
元方向に広がったアルミノシリケート骨格が積層しており,これを水中に分散させる
と層が一枚一枚ばらばらに剥離して,厚さ 1 nm の超薄層(ナノシート)のコロイド
が得られる.このナノシートは負に帯電しているため,金属イオンをよく吸着する.
すなわち,Cu2+を Sapo ナノシート上で光還元させれば,異なるナノシート上に存在
する Cu シードは衝突しづらいため成長を抑えられ,[Cu2+]による Cu NP の粒径制御
を期待できる.また,Cu NP は Sapo 上に担持されているため,得られる複合体
(Cu−Sapo)の分散性は Sapo ナノシートの分散状態で制御できる可能性がある.そこ
で本研究では,Sapo への Cu2+の吸着を利用して,光還元法で得られる Cu NP の粒径
と分散性を制御することを目的とした.
【実験】Sapo を Milli-Q 水に分散させ,酢酸銅水溶液とエタノールを滴下した.この溶液に紫外光を照射して Cu−Sapo を得た.以下,x mmol L−1の Cu2+, y g L−1の Sapo を用いて合成した Cu−Sapo 溶液を{x:y}と表記する.Cu NP の表面プラズモン共鳴(SPR)は紫外可視分光法(UV-vis),酸化状態は X 線回折法(XRD),粒径は走査型透過電子顕微鏡(STEM),Sapo の凝集状態は動的光散乱法(DLS)で測定した.また,二相分離した溶液については下層をろ過し,得られたペーストを 2 枚のガラス板で挟み,乾燥させて Cu−Sapo フィルムを得た.
【結果・考察】{0.5:0.5}の試料に紫外光を照射すると,Cu NP の SPR に特徴的な赤褐色の溶液が得られ,UV-vis消光スペクトルでは 560 nmに球状のCu NPに由来するSPR
バンドが現れた.STEM 観察より,粒径は 13 nm であることがわかった.Cu−Sapo のXRD パターンでは,43.3°と 50.4°に Cu0
の(111), (200)面に由来するピークが現れ,Cu2O, CuO に由来するピークは見られなかった(図 1).このことから,光照射によって酸化物を含まない純粋なCu NPのみが得られたことがわかった.一方で Sapo については,最も強い(001)面のピークが 2θ = 6.4°に見られたが,他のピークは全く見られなかった.すなわち,光照射によって得られるCu−Sapo では Sapo ナノシートはミクロに凝集していることが示唆された.DLS 測定より,Sapo の粒径(33 nm)よりも 10 倍以上大きい 560 nm の粒子が主として存在していたため,Sapo はミクロに凝集していることがわかった.
{0.5:0.5}よりも[Cu2+]を低くした{0.2:0.5}, {0.1:0.5}では,Cu NP の粒径はそれぞれ8, 6 nm であった.すなわち,[Cu2+]で Cu NP の粒径はコントロールできることがわかった.これは,ミクロに凝集した Sapo 上で Cu2+を光還元したことで,Cu シードの成長が抑えられたためと考えられる.また,{1:1}, {2:2}のとき,Cu NP の粒径はいずれも13 nmと,{0.5:0.5}の場合と同じであった.このとき,試料を24 h静置しても{0.5:0.5},
{1:1}では溶液は均一に分散していたが,{2:2}では無色透明な上層と赤褐色にけん濁した下層に分離した.このとき,{2:2}の Sapo 凝集体のサイズは> 10 μm で,{0.5:0.5}
の数十倍であったため,Sapo 凝集体のサイズによって Cu NP は粒径を変えずにその分散性を制御できることがわかった.さまざまな濃度比の Cu−Sapo について分散性を調べた結果,系の分散状態はおおむね[Cu2+]で決まり,[Cu2+]が高いと二相に分離することがわかった(図 2).これは,凝集体はCu NP が Sapo ナノシートを接着することで形成され,高い[Cu2+]では大きな凝集体となるためと考えられる.
二相に分離した Cu−Sapo 凝集体をろ過すると,粘性が高い Cu NP ペーストを得られた.これをガラス板に挟んで乾燥させたところ,赤褐色のフィルムが得られた.フィルムの透過スペクトルでは,乾燥前と同じ 560
nm に Cu NP の SPR バンドが見られたため,Sapo ナノシートによって Cu NP が隔離されて凝集していないことが示唆された.実際,STEM
観察でも Cu NP は凝集せずに分布しており,その粒径もろ過前と変わらなかった.すなわち,Sapo のミクロな凝集を利用すると,Cu NP の粒径,分散性を制御でき,NP
を凝集させずにフィルム化できることがわかった.
【参考文献】
[1] R. Jin et al. Science 294, 1901 (2001).
[2] C. Kim et al. ACS Catal. 7, 2294 (2017).
[3] I. Shown et al. Nano. Lett. 14, 6097 (2014).
35 45 55 655 7 955 65
2θ / degree
Inte
nsity
4535975
×1/15
Figure 1. An XRD pattern of Cu−Sapo.
Figure 2. Dispersibility of Cu−Sapo.
4B12
酸化水酸化鉄ナノ粒子を出発原料とした
金属置換型イプシロン酸化鉄ナノ粒子の合成 1東大院理
○塚本聖哉1, 生井飛鳥1, 吉清まりえ1, 大越慎一1
Synthesis of metal-substituted epsilon-iron oxide nanoparticles using
beta-FeO(OH) nanoparticles as a starting material
○Seiya Tsukamoto1, Asuka Namai1, Marie Yoshikiyo1, Shin-ichi Ohkoshi1 1 Department of Chemistry, School of Science, The University of Tokyo, Japan
【Abstract】-Fe2O3 is one of the phases of Fe2O3. Our research group firstly synthesized
pure epsilon phase. -Fe2O3exhibits a large coercive field value over 20 kOe, and its
magnetic properties are controlled by metal-substitution. In 2015, we reported a synthesis
method of -Fe2O3 using ferrihydroxide as a starting material. In this work, we investigated
the synthesis of a metal-substituted -Fe2O3, -GaxTi0.05Co0.05Fe1.9-xO3, by utilizing this
method. As a result, pure -phase of -GaxTi0.05Co0.05Fe1.9-xO3 was obtained. The particle size
and size distribution depend on the sintering temperature and the amount of SiO2 matrix.
【序】イプシロン酸化鉄(-Fe2O3)は、酸化鉄の相の 1 つであり、ナノサイズ領域で安
定相として発現する。当研究室が 2004 年に初めて-Fe2O3の単相合成に成功し、室温
で 20 kOe 以上の巨大保磁力を持つ強磁性体であることと、その結晶構造を明らかに
した(図 1)[1]。
酸化物磁性体の中で最大級のこの保磁力は、結晶全体の持つ大きな磁気異方性に由
来する。また、結晶構造中の鉄サイトを他の金属イオンで置換することで、-Fe2O3
の磁気特性を制御できることを報告している[2]。
また、当研究室では図 2 に示すような酸化水酸化鉄ナノ粒子を SiO2 マトリックス
に分散させ、大気焼成する-Fe2O3ナノ粒子の合成法を見出し、5 ~ 40 nm の領域で、
大気焼成温度を変化させて合成することで生成物の粒径を制御できることを報告し
た[3]。本研究ではこの報告を元に、-Fe2O3 の金属置換による磁性制御と合成条件変
化による粒径制御を試みたので報告する。
【方法 (実験・理論)】-Fe2O3合成スキーム(Fig.2)をベースとして、反応溶液に Ga 硝
酸塩、Ti 塩酸塩、Co 硝酸塩を加えることで単相での多元金属(Ga3+, Ti4+, Co2+)置換型
イプシロン酸化鉄の合成を試みた。また、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)の量を、
FeC
FeD
FeB
FeA
O
a b
c
Fig.1. Crystal structure of -Fe2O3.
Fig.2. Synthesis method using ferrihydroxide sol.
sintering
25% NH3 aq. TEOSFerrihydroxide
(in SiO2 matrix)
Ferrihydroxide
dispersion
(~ 6 nm)
-Fe2O3
NaOH aq.
stirring
in air
[Si] / [M] (M = Fe + Ga + Ti + Co)の値がそれぞれ 10, 21, 42 となるよう変化させること
で、SiO2マトリックス量の異なる 3 種の前駆体を合成し、各々1020 ºC, 1040 ºC, 1100 ºC
で 4 時間大気焼成することで、9 つのサンプルを得た。得られたサンプルに対し、誘
導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)による元素分析、粉末 X 線回折(PXRD)による結晶
構造解析、超伝導量子干渉磁束計(SQUID)による磁化測定、透過電子顕微鏡(TEM)に
よる粒径観察を行った。
【結果・考察】PXRD パターンより、いずれのサンプルも斜方晶(空間群 Pna21)に帰属される回折ピークが観測された。図 3 に、XRD パターンの一例を示す。これらのXRD パターンの Rietveld 解析の結果、全てイプシロン相が単相で得られたことが分かった。
また、ICP-MS の結果、得られたサンプルは全て-GaxTiyCoyFe2-x-2yO3 で表される組成であり、金属置換型-Fe2O3が得られたことが分かった。
また、TEM による粒径観察の結果を図 4 に示す。平均粒径は焼成温度により大きく異なり、[Si] / [M] = 10 の条件の試料では、11.8 ± 2.9 nm (1020 ºC)、13.3 ± 3.8 nm (1040
ºC)、19.6 ± 6.1 nm (1100 ºC)となっていた。粒度分布は低く抑えられており、例えば 1020
ºC焼成サンプルでは 24.1 %という狭い粒度分布となっていた。図 5に平均粒径 vs. 焼成温度のプロットを示した。無置換-Fe2O3
に比べると平均粒径が大きくなる傾向があるが、粒度分布は同程度に抑えられていた。さらに、SiO2マトリックス量を増やすことによっても、粒径を制御することができ、1020 ºC で焼成したサンプルで比較すると、11.8 ± 2.9 nm ([Si] / [M] = 10)、11.1 ±
3.1 nm ([Si] / [M] = 21)、10.4 ± 2.7 nm ([Si] /
[M] = 42)となっていた。焼成温度およびSiO2マトリックス量を変えたことで、SiO2
マトリックス中での前駆体粒子の衝突頻度が変わり、粒子成長が制御できたと考えられる。
【参考文献】
[1] J. Jin, S. Ohkoshi, and K. Hashimoto, Adv. Mater. 16, 48 (2004).
[2] S. Ohkoshi, S. Kuroki, S. Sakurai, K. Matsumoto, K. Sato, and S. Sasaki, Angew. Chem. Int. Ed. 46,
8392(2007).
[3] S. Ohkoshi, A. Namai, K. Imoto, M. Yoshikiyo, W. Tarora, K. Nakaawa, M. Komine, Y. Miyamoto, T. Nasu,
S. Oka, and H. Tokoro, Scientific Reports, 10, 14414(2015).
30
20
10
0
Pa
rtic
le s
ize
(n
m)
11601120108010401000960
Sintering temperature (°C)
Fig.5. Particle size vs. Sintering temperature plots with error bar of the obtained samples([Si] / [M] = 10) (red closed circles), and -Fe2O3 ([Si] / [M] = 10) (open circles) [3].
Inte
nsity (
a.u
.)
60504030202 (°)
(02
2)
(12
2)
(01
3) (1
31
)(1
30
)
(13
2)
(13
3)
(20
4)
(31
2)
(21
2)
(22
3)
(21
3)
(14
2)
Fig.3. PXRD pattern of the sample
([Si] / [M] = 21, sintered at 1100 ºC).
Fig.4. TEM images of obtained samples sintered at
(a)1020 ºC, (b)1040 ºC, (c)1100 ºC in same amount of
TEOS ([Si] / [M] = 10).
20 nm
d = 19.6 ± 6.1 (nm)
(30.9 %)
(c)
20 nm
d = 13.3 ± 3.8 (nm)
(28.3 %)
(b)
20 nm
d = 11.8 ± 2.9 (nm)
(24.1 %)
(a)
4B13
多元金属置換型イプシロン酸化鉄ナノ粒子の合成と
テラヘルツ分光法によるゼロ磁場下強磁性共鳴の観測 1東大院理
○絹川里奈1,生井飛鳥1,大越慎一1
Synthesis of multi-metal substituted epsilon Fe2O3 nanoparticles and
observation of zero-field ferromagnetic resonance
using terahertz time-domain spectroscopy
○Rina Kinugawa1, Asuka Namai1, Shin-ichi Ohkoshi1 1 Department of Chemistry, School of Science, The University of Tokyo, Japan
【Abstract】Our laboratory have reported that epsilon iron oxide (ε-Fe2O3) exhibits high
frequency millimeter wave absorption at 182 GHz due to a zero-field ferromagnetic resonance.
The millimeter wave absorption properties have been reported to be tuned by substitution
with trivalent metal ions such as Ga3+, Al3+, In3+, and Rh3+. In this study, Ga3+, Ti4+, Co2+
substituted ε-Fe2O3 nanoparticle was synthesized using a sol-gel method, then its crystal
structure and magnetic property were investigated. The obtained sample was pure epsilon
phase with an orthorhombic crystal structure of Pna21 space group. It was found to be a hard
ferrite magnet exhibiting the coercive field value of 3.9 kOe at 300 K. Furthermore, natural
resonance absorption was observed at 66 GHz by using terahertz time-domain spectroscopy
(THz-TDS). The observed absorption spectrum was fitted well by Landau-Lifshitz equation.
【序】当研究室ではイプシロン酸化鉄(ε-Fe2O3) (図 1)が、室温において金属酸化物磁性体中で最大の保磁力 Hc > 20 kOe
を示し、その大きい磁気異方性のため磁性体最高周波数の182 GHz において透磁率の周波数依存性に起因したゼロ磁場下強磁性共鳴(自然共鳴)によるミリ波吸収を示すことを報告している[1]。自然共鳴とは、磁界を加えない条件下で磁性体に電磁波を照射するとジャイロ磁気効果によって磁化が容易軸の周りを歳差運動し、物質固有の周波数を持つ電磁波が共鳴吸収される現象である(図 2)。そして、ε-Fe2O3について、Ga3+、 Al3+、 In3+、 Rh3+といった 3 価金属イオンによる Fe3+イオンの置換により、その磁気特性およびミリ波吸収特性を制御できることを報告している [1, 2]。また、2016 年には、ε-Ga0.31Ti0.05Co0.05Fe1.59O3の磁気特性の制御についても報告している[3]。本研究では Ga3+、Ti4+、Co2+を含む多元金属置換型 ε-Fe2O3 のミリ波吸収特性について検討したため、これを報告する。
【方法 (実験・理論)】ゾル-ゲル法により多元金属置換型 ε-Fe2O3を合成した。誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)、粉末 X 線回折(PXRD)、超伝導量子干渉磁束計(SQUID) を用いて、組成分析、結晶構造解析、磁化測定をそれぞれ行った。さらに、得られた試料をペレット状に成型加工し、テラヘルツ時間領域分光法(THz-TDS)によりミリ波帯の吸収特性について評価した。
FeB
FeA
FeC
FeD
b
c
Figure 1. Crystal structure
of ε-Fe2O3.
Magnetization
precess
Millimeter wave
Magnetic anisotropy
Magnet
Figure 2. Schematic
image of Gyromagnetic
effect.
【結果・考察】ICP-MS 測定結果より、得られた試料の組成式は Ga0.30Ti0.04Co0.05Fe1.61O3
であった。PXRD パターンの Rietveld 解析により、Pna21 空間群の斜方晶構造を有する ε相が単相で得られたことが分かった(図 3a)。結晶構造中には 4 つの非等価 Fe サイト(A–Dサイト)がある(図 1)。得られたサンプルは主にDサイト(各占有率はGa3+: 48%,
Ti4+: 9%, Co2+: 10%)、続いて C サイト (Ga3+: 12%)が、金属置換されたことが結晶構造解析より示唆された。図 3b に得られた磁気ヒステリシスループを示す。保磁力は、3.9 kOe であった。なお、Ga3+組成 x を 0.29 と 0.28 に変化させた試料についても同様に調べたところ、各保磁力は 4.1 kOe (x = 0.29)、4.3 kOe (x = 0.28)であり、x が減少するほど保磁力が増加する傾向が観測された。
THz-TDS で測定した ε-Ga0.30Ti0.04Co0.05Fe1.61O3の吸収スペクトルを図 4a に示す。こ
のスペクトルは 66 GHz の吸収ピークと約 35 GHz 周期の波形から成っていた[4]。そ
こで、磁化歳差運動を記述する Landau-Lifshitz 方程式と試料内の多重反射を考慮して
スペクトルの解析を行った。周波数 f における複素比透磁率 μr = μʹ−jμʹʹは
1cossinmax
2max sin
fff r 2/tan 1
(fr: 自然共鳴周波数,
μʹʹmax: μʹʹ最大値, Δf: μʹの半値幅) のように書き表される。また、以下
の式により多重反射を考慮して吸
収量 A (absorption)を算出した。ここ
で、試料の複素比誘電率を一定であ
ると仮定した。
22210 11log20 TTA
11 rrrr
cfdjT rr 002exp
(Γ: 反射係数, T: 透過係数,
d: 試料厚, εr: 複素比誘電率,
ε0: 真空の誘電率,
μ0: 真空の透磁率, c: 光速) 解析の結果、図 4a に示すようにス
ペクトルをフィッティングするこ
とが出来た。図 4b に複素比透磁率の周波数依存性を示す。ε-Ga0.30Ti0.04Co0.05Fe1.61O3
のミリ波吸収特性は共鳴周波数が 66 GHz で、磁化歳差運動の共鳴によるものである
ことが確かめられた。
【参考文献】 [1] A. Namai, S. Sakurai, M. Nakajima, T. Suemoto, K. Matsumoto, M. Goto, S. Sasaki, and S. Ohkoshi, J. Am.
Chem. Soc., 131, 1170 (2009). [2] S. Ohkoshi, S. Kuroki, S. Sakurai, K. Matsumoto, K. Sato, and S. Sasaki, Angew. Chem. Int. Ed., 46, 8392
(2007). [3] S. Ohkoshi, A. Namai, M. Yoshikiyo, K. Imoto, K. Tamasaki, K. Matsuno, O. Inoue, T. Ide, K. Masada, M.
Goto, T. Goto, T. Yoshida, and T. Miyazaki, Angew. Chem. Int. Ed., 55, 11403 (2016).
[4] S. Ohkoshi, A. Namai, T. Yamaoka, M. Yoshikiyo, K. Imoto, T. Nasu, S. Anan, Y. Umeta, K. Nakagawa, and
H. Tokoro, Sci. Rep., 6, 27212 (2016).
Figure 4. (a) Millimeter wave absorption spectra. Red dots,
blue line, and dotted line represent the observed, fitted, and
multiple reflection spectra, respectively. (b) Relative
magnetic permeability calculated from the result of
THz-TDS.
Figure 3. (a) XRPD pattern of the sample. Red dots and
blue line represent the observed and calculated patterns,
respectively. (b) Magnetic hysteresis loop of the sample (x
= 0.30) measured at 300 K.
Inte
nsity /
a.u
.
706050403020
2 / degree
-20
-10
0
10
20
Mag
ne
tization / e
mu g
-1
-20 -10 0 10 20
Magnetic field / kOe
a b
1.0
0.5
0.0
Magnetic p
erm
eabili
ty
1209060300Frequency / GHz
'
''
66 GHz |
a bfr= 66 GHz
4B14
100 GHz超の高周波ミリ波吸収性を有する
Ti-Co共置換型イプシロン酸化鉄ナノ粒子の合成法の検討 1東大院理
○緒方惟栄1,生井飛鳥1,大越慎一1
Study on synthesis method of Ti-Co substituted epsilon-iron oxide
nano particles with millimeter wave absorption property above 100 GHz
○Koreyoshi Ogata1, Asuka Namai1, Shin-ichi Ohkoshi1
1 Department of chemistry, School of science, The University of Tokyo, Japan
【Abstract】Pure phase of epsilon iron oxide (ε-Fe2O3) nanoparticle synthesized by
combination of reverse micelle method and sol-gel method has a large coercive field
exceeding 20 kOe, and shows millimeter wave absorption property at 182 GHz due to
zero-field ferromagnetic resonance. These properties are controlled by substitution with
trivalent metal ion (e.g. Ga3+). Furthermore, we reported ε-Ga0.31Ti0.05Co0.05Fe1.59O3 which
suggested that Ti4+-Co2+ substitution has a significant effect in metal substitution[4]. In this
study, we synthesized co-substituted ε-Fe2O3 with Co2+ and Ti4+, and investigated its magnetic
properties and millimeter wave absorption properties. One of the synthesized samples
exhibited millimeter wave absorption property at 140 GHz, which is one of the atmospheric
window.
【序】イプシロン酸化鉄は大きな磁気異方性を有し,室温で 20 kOe を超える保磁力
と磁性体最高周波数の自然共鳴によるミリ波吸収特性を示す[1].これらの特性は,
Ga3+などの金属置換により制御可能であることを見出しており[2,3],さらに,2016 年
に報告した ε-Ga0.31Ti0.05Co0.05Fe1.59O3においてTi4+-Co2+共置換が大きな金属置換効果を
有することが示唆された.本研究では,Ti4+-Co2+共置換型イプシロン酸化鉄 (ε-
TixCoyFe2-x-yO3, 0 ≤ x ≤ 0.05)の合成を検討し,その磁気特性およびミリ波吸収特性測定
を行い,Ti4+-Co2+共置換効果を調べたのでこれを報告する.
【方法 (実験・理論)】本報告の前駆体合成において硝酸鉄(Ⅲ)を出発物質とするゾル
-ゲル法を用いた.得られた前駆体を 1100°C,4 時間の焼成することで,SiO2 によっ
て被覆された目的物を得た.これを NaOH 水溶液中で 24 時間攪拌することでエッチ
ングを行い目的物を得た.本手法を用いて,([Ti]+[Co]) / ([Ti]+[Co]+[Fe])の比を 0, 0.015,
0.035, 0.050 とした試料 1–4 を合成した.得られた試料について,透過型電子顕微鏡
(TEM)による粒径観察,粉末 X 線回折(PXRD)による結晶構造解析,誘導結合プラズ
マ質量分析計(ICP-MS)による組成分析,超伝導量子干渉磁束計(SQUID)による磁気特
性測定,テラヘルツ時間領域分光法(THz-TDS)によるミリ波吸収特性測定を行った.
【結果・考察】組成分析の結果,組成は Fe2O3(試料 1),Ti0.01Co0.02Fe1.97O3 (試料 2),
Ti0.03Co0.04Fe1.93O3 (試料 3),Ti0.05Co0.05Fe1.90O3 (試料 4)であった.図 1 に試料 4 の PXRD
パターンを示した.全ての試料でイプシロン相(斜方晶,空間群 Pna21)が主相として
生成していた( > 70%).また,アルファ相(菱面体晶,R3c)が不純物相に含まれていた.
各試料の室温における磁気ヒステリシスループを図 2に示した.置換量の増加に伴い,
保磁力は 20.0 kOe(試料 1), 16.2 kOe(試料 2), 11.6
kOe(試料 3), 8.4 kOe(試料 4)と大きく変化することが分かった.この変化量はこれまでに報告している置換金属種の中で最も大きく,例えば Ga3+
では Fe3+を 5%置換すると保磁力が 15.9 kOe に変化するが,Ti4+-Co2+共置換では 8.4 kOe まで変化していた.図 3 に試料 2 のミリ波吸収スペクトルを示した.ピーク周波数は Ti4+-Co2+により 182
GHz(試料 1),162 GHz(試料 2),140 GHz(試料 3),125 GHz(試料 4)までシフトした.観測されたTi4+-Co2+共置換による保磁力と自然共鳴周波数の大きな減少は次のようなメカニズムによるものではないかと考えられる[4].イプシロン酸化鉄におけるBサイトの鉄イオンは a軸方向に高い磁気異方性を持つことが,第一原理計算による電子状態計算から分かっている[5].金属置換によって D サイトに Co が置換されると,Co イオンが c 軸方向に高い磁気異方性を持ち,この二つの磁気異方性が直交するため磁気異方性が小さくなったと考えられる.
【参考文献】
[1] J. Jin, S.Ohkoshi, K.Hashimoto, Adv. Mater. 16, 48 (2004).
[2] A. Namai, S. Sakurai, M. Nakajima, T. Suemoto, K. Matsumoto, M. Goto, S. Sasaki, S. Ohkoshi, J. Am. Chem. Soc.
131, 1170 (2009).
[3] S. Ohkoshi, H. Tokoro, Bull. Chem. Soc. Jpn. 86, 897 (2013).
[4] S. Ohkoshi, A. Namai, M. Yoshikiyo, K. Imoto, K. Tamazaki, K. Matsuno, O. Inoue, T. Ide, K. Masada, M. Goto, T.
Goto, T. Yoshida, T. Miyazaki, Angew. Int. Ed. 55, 11403 (2016).
[5] M. Yoshikiyo, K. Yamada, A. Namai, S. Ohkoshi, J. Phys. Chem. C. 116, 8688 (2012)
Inte
nsity /
a.u
.
6050403020
2 / deg.
0.090.060.030
[ x ]+[ y ] parameter
180
150
120
90
Absorp
tion f
requency /
GH
z
15
10
5
0
Absorp
tion /
dB
mm
-1
20016012080
Frequency / GHz
Fig. 1. PXRD pattern of (CoTi)0.05Fe1.90O3.
the structure of ε-Fe2O3 is shown in inset.
Fig. 4 x parameter vs Absorption
frequency plots of ε- TixCoyFe2-x-yO3.
Fig. 2. MH loops of ε-Fe2-2x(CoTi)xO3 measured at 300K.
Fig. 3 Millimeter absorption
properties of ε- TixCoyFe2-x-yO3 .
Fe2O3 Ti0.05Co0.05Fe1.90O3 Ti0.03Co0.04Fe1.93O3 Ti0.01Co0.02Fe1.97O3
Fe2O3
Ti0.01Co0.02Fe1.97O3
Ti0.03Co0.04Fe1.93O3
Ti0.05Co0.05Fe1.90O3
4B15
Al置換型イプシロン酸化鉄の自然共鳴現象によるミリ波回転性
1東大院理・化学
○生井飛鳥1,吉清まりえ1,大越慎一1
Millimeter wave rotation property due to natural resonance on
Al substituted ε-iron oxide
○Asuka Namai1, Marie Yoshikiyo1, Shin-ichi Ohkoshi1 1 Department of Chemistry, School of Science, The University of Tokyo, Japan
【Abstract】In the present work, we investigated the millimeter wave absorption and rotation properties of ε-Al0.47Fe1.53O3 using terahertz time domain spectroscopy. The millimeter wave absorption intensity per thickness is 13 dB mm−1 at 100 GHz, and the millimeter wave rotation angle and ellipticity per thickness are 11 degree mm−1 and 0.3 mm−1, respectively, at 100 GHz. 【序】 当研究室では、イプシロン酸化鉄(ε-Fe2O3)および金属置換型イプシロン酸
化鉄(ε-MxFe2−xO3: M = Ga, Al, In, Rh)が、ミリ波と呼ばれる mm オーダーの波長の領
域に、磁性体最高となるゼロ磁場下強磁性共鳴(自然共鳴)周波数を有し、高周波ミ
リ波吸収特性を 35~222 GHz に示すことを報告してきた。このミリ波吸収特性は磁化
の歳差運動に由来するものであるが、磁化の歳差運動には方向性があるため、磁極の
向きを揃えることで共鳴周波数近傍における偏光特性の発現が期待される。本研究で
は、アルミニウム置換型イプシロン酸化鉄のミリ波領域における偏光特性を調べたの
で報告する。 【方法 (実験・理論)】 試料はゾルゲル法により合成を行った。硝酸アルミニウムと
硝酸鉄の混合水溶液にアンモニア水を加えた後、テトラテトラエトキシシランを加え、
生じた沈殿物を遠心分離により得た。これを、洗浄、乾燥した後、大気下 1100℃で焼
成した。焼成試料を水酸化ナトリウム水溶液で加熱攪拌したのち、分離、洗浄、乾燥
することで最終生成物を得た。試料の組成分析は ICP-AES により行い、透過型電子
顕微鏡を用いて形状観察を行った。粉末 X 線回折パターンを測定し、Rietveld 解析に
よる結晶構造解析を行った。また、物理特性測定装置を用いて磁気特性の測定を行っ
た。テラヘルツ時間領域分光装置を用いて(図1)、サブテラヘルツ領域の電磁波吸
収特性を調べた。 【結果・考察】 得られた試料は単相の ε-Al0.47Fe1.53O3 であり、室温にて強磁性を示し、
300 K における保磁力は 10.4 kOe、9 T における飽和磁化は 29.1 emu/g、残留磁化は 12.9 emu/g の強磁性体であった。粉末状の ε-Al0.47Fe1.53O3 をペレット状に荷重成型し、厚
みを d = 1.130 mm, 2.339 mm, 3.549 mm と変えてた試料を作成して測定を行った。いず
れの試料も 100 GHz に吸収ピークが観測された。吸収ピークの最大値は 8.00 dB (d = 1.130 mm), 17.0 dB (2.339 mm), 25.0 dB (d = 3.549 mm)となっており、ε-Al0.47Fe1.53O3 ペレット厚みに比例することが分かった。1 mm あたりの吸収強度(100%充填に換算)は13 dB mm−1 であった。
ミリ波回転性能を調べるため、
ε-Al0.47Fe1.53O3ペレット試料を 8Tの
パルス磁場で着磁した。試料透過光
強度の水平成分及び垂直成分を測
定することにより、回転角度及び楕
円率の周波数依存性を求めた。
2.339 mm 厚の試料の測定結果を図
2に示す。入射テラヘルツパルス光
は直線偏光とであるが、試料を透過
した後は、楕円偏光となっていた
(図 2a)。回転角および楕円率の周
波数依存性を図 2b および 2c に示し
た。楕円率は共鳴周波数を中心とす
るピーク型の周波数依存性を示し、
着磁したペレット試料の N 極側か
ら入射した場合の最大値は 100 GHz で 0.7 であった。一方、回転角
は共鳴周波数を中心とする微分型
の周波数依存性を示し、回転角の最
大値は 102.2 GHz で+25º、最小値は
97.0 GHz で−25º であった。磁極の
向きを反転させると、楕円率及び回
転角の符号が反転した。なお、吸収
量と同様、楕円率及び回転角も試料
厚みに比例していた。 観測されたミリ波回転性能は、残
留磁化とその方向に明らかに由来
しており、自然共鳴現象における磁
化の歳差運動から放射される自由
誘導減衰により、このような偏光特
性が生じたと考えられる。 【参考文献】 [1] A. Namai, S. Sakurai, M. Nakajima, T.
Suemoto, K. Matsumoto, M. Goto, S. Sasaki, and S. Ohkoshi, J. Am. Chem. Soc., 131, 1170 (2009).
[2] A. Namai, M. Yoshikiyo, K. Yamada, S. Sakurai, T. Goto, T. Yoshida, T Miyazaki, M. Nakajima, T. Suemoto, H. Tokoro, and S. Ohkoshi, Nature Communications, 3, 1035 (2012).
[3] S. Ohkoshi, A. Namai, T. Yamaoka, M. Yoshikiyo, K. Imoto, T. Nasu, S. Anan, Y. Umeta, K. Nakagawa and H. Tokoro, Scientific Reports, 6, 27212 (2016).
[4] A. Namai, M. Yoshikiyo, and S. Ohkoshi, IEEE Magnetic Letters, 7, 5506704 (2016).
Pulse repetition: 76 MHz
Central photon energy : 1.55 eV
Time width of pulse: 20 f s
Wire grid
polarizer
Fig. 1. Schematic diagram of the THz-TDS measurement system.
Fig. 2. (a) Tree-dimensional trajectory plot for the transmitted THz electric fields with both horizontal and vertical components when THz pulse was irradiated from the N-pole direction. (b,c) Frequency dependence of ellipticity and rotation angle. Solid lines and dotted lines denote the results measured by irradiation from the N-pole direction and S-pole direction, respectively.
-1
0
1
1401201008060
Frequency (GHz)
-40
-20
0
20
40
1401201008060
Frequency (GHz)
N-pole
S-pole
N-pole
S-pole
Ro
tatio
n a
ng
le(d
eg
ree)
Elli
pti
city
(b) (c)
4045
5055
60
-2
-1
0
1
2
-2
-1
0
1
2
(a)
SN
4B16
フフェェムムトト秒秒強強レレーーザザーー場場にによよるる気気相相エエチチレレンンかかららのの
水水素素化化アアモモルルフファァススカカーーボボンンのの生生成成 1名大院理,2名大物国セ
○松田晃孝1,林貴大1,菱川明栄1,2
Formation of Hydrogenated Amorphous Carbon by Femtosecond Laser Filamentation in Gaseous Ethylene
○Akitaka Matsuda1, Takahiro Hayashi1, Akiyoshi Hishikawa1,2 1 Department of Chemistry, Nagoya University, Japan
2 Research Center for Materials Science, Nagoya University, Japan
【【Abstract】】Association reactions of gaseous ethylene in femtosecond laser filaments are studied. Characterization of the precipitates has shown that hydrogenated amorphous carbon (a-C:H) films and nanoparticles are formed from ethylene by the strong interaction with intense laser fields (~1013 W/cm2). It is found that the sp2/sp3 carbon ratio of the films and size of the nanoparticles strongly depend on the laser field intensity. 【【序序】】強レーザー場(~1014 W/cm2)における分子ダイナミクスはこれまで単分子解離反応を中心に研究が進められ,弱い光の場では見られない様々な現象が見出されてきた。 一方で,複数の分子が関与する多体反応への展開は未だ限定的である[1]。近年我々の研究グループでは強レーザーパルスを長焦点のレンズを用いて集光して得られるレ
ーザーフィラメントを用い,気相エチレンの多体反応によって水素化アモルファスカ
ーボン(a-C:H)が生成されることを明らかにした。生成物はレーザー場強度の増加にともなって無色から黄色へと変わることが見出され,レーザー場における非線形過程が
その構造を決定づける大きな要因であることが示唆された[2]。本研究では,X線光電子分光(XPS),透過型電子顕微鏡(TEM)観察,および電子エネルギー損失分光(EELS)による生成物の詳細な分析を行い,そのレーザー場強度依存性から強レーザー場におけ
る多体反応メカニズムの解明を目指した[3]。 【【実実験験】】チタンサファイアレーザー再生増幅器(800 nm, 1 kHz, 45 fs)から出力されるレーザー光(1.1 mJ)を気相エチレンで満たしたガスセル内に集光することでレーザーフィラメントを発生させ,異なる焦点距離のレンズ(f = 1500および 750 mm)を用いることで実効的なレーザー場強度 Ieffを変化させた。レーザー照射時間は 8 時間とし,ガスセル内にあらかじめ導入したシリコンウエハおよび TEM グリッド上に回収された生成物の XPS計測および TEM観察・EELS計測を行った。 【【結結果果・・考考察察】】シリコンウエハ上に回収された生成物の炭素 K 殻吸収端の XPS スペクトルを図1(a), (b)に示す。長焦点レンズ(f = 1500 mm)を用いた場合(低強度条件,Ieff
low)において得られた生成物からは,sp3炭素に由来するピーク(285.4 eV, FWHM 1.5 eV)とともに,サンプルの空気暴露によって生じたサンプル表面の C-O 結合に由来するピーク(286.2 eV, FWHM 3.4 eV)が観測された。一方で,短焦点レンズ(f = 750 mm)を用いた場合(高強度条件,Ieff
high)において得られた生成物からは,新たに sp2炭素に由来する
ピーク(284.6 eV, FWHM 2.1 eV)が観測され,sp3炭素に起因するピークの相対強度は著
しく減少した。次に TEM グリッドの支持膜上に回収された生成物の透過顕微鏡像を図 1(c), (d)に示す。粒径 1 µm以下のナノ粒子の生成が確認され,レーザー場強度の増加とともに粒径が小さくなることが見出された。生成されたナノ粒子の炭素 K 殻吸収端における EELSスペクトル(図 1(e), (f))は,いずれの強度条件においても σ結合および π結合の存在を示す σ*および π*のピークを有したが,XPSとは対照的に,レーザー場強度の増加に伴うピーク強度の変化はほとんど観測されなかった。XPSでは試料表面全体を計測しているのに対して,EELS では支持膜からはみ出たナノ粒子の一部のみを計測している。このことに加え,透過顕微鏡像が示すようにナノ粒子の表面
被覆率は比較的低いことから,XPSスペクトルは表面全体を覆うように生成された薄膜に由来することが示唆される。強レーザー場にさらされたエチレンは,低いレーザ
ー場強度においては 1価の親イオンの生成が支配的であるのに対し,レーザー場強度の増加とともに解離イオンの生成比率が著しく増加することが報告されている[4]。このことから,低強度条件では親イオンと親分子の衝突により sp3炭素が豊富な生成物
が得られるのに対し,高強度条件においては解離イオン同士の衝突が進行することで
sp2炭素が豊富な生成物が得られるようになると考えられる。一方で,EELS計測の結果が示すように,ナノ粒子の生成においてはレーザー場強度の増加に伴う反応過程の
変化は起きないことが示唆される。
【【参参考考文文献献】】 [1] S. L. Shumlas et al., Mater. Chem. Phys. 156, 47 (2015). [2] 松田,林,菱川,第9回分子科学討論会, 1B07 (2015). [3] A. Matsuda, T. Hayashi, R. Kitaura, and A. Hishikawa, Chem. Lett. 10.1246/cl.170613 (2017). [4] A. Talebpour et al., Chem. Phys. Lett. 313, 789 (1999).
Fig. 1. (a), (b) XPS spectra near the carbon 1s edge, obtained from the precipitates recovered on silicon wafers obtained at low and high intensity conditions. (c), (d) Typical TEM micrograph of the precipitates on copper grids with cellulose nitrate supporting membrane and (e), (f) EELS spectra of the nanoparticles obtained at the two different intensity conditions.
4B17
Ne-Kr混合クラスターにおける基底状態イオンからの
低エネルギー電子生成過程 1東北大多元研, 2理研RSC, 3京大院理, 4産総研,
5ゲーテ大, 6IOM, 7IPP, 8ハイデルベルク大
○You Daehyun1,2, 福澤宏宣1,2, 榊原悠太1,2, 高梨司1,2, 伊藤雄太1,2,
Maliyar Gianluigi M.1,2, 本村幸治1,2, 永谷清信2,3, 西山俊幸2,3, 浅和貴2,3, 佐藤由比呂2,3,
斎藤則生2,4, 大浦正樹2, Schöffler Markus2,5, Kastirke Gregor5, Hergenhahn Uwe6,7,
Stumpf Vasili8, Gohkberg Kirill8, Kuleff Alexander I.8, Cederbaum Lorenz S.8, 上田潔1,2
Low energy electron productions
from ground-state ions in Ne-Kr clusters
○Daehyun You1,2, Hironobu Fukuzawa1,2, Yuta Sakakibara1,2, Tsukasa Takanashi1,2,
Yuta Ito1,2, Gianluigi G. Maliyar1,2, Koji Motomura1,2, Kiyonobu Nagaya2,3,
Toshiyuki Nishiyama2,3, Kazuki Asa2,3, Yuhiro Sato2,3, Norio Saito2,4, Masaki Oura2,
Markus Schöffler2,5, Gregor Kastirke5, Uwe Hergenhahn6,7, Vasili Stumpf8, Kirill Gohkberg8,
Alexander I. Kuleff8, Lorenz S. Cederbaum8, Kiyoshi Ueda1,2 1Institute of Multidisciplinary Research for Advanced Materials, Tohoku University, Japan
2RIKEN SPring-8 Center, Japan 3Department of Physics, Kyoto University, Japan
4National Metrology Institute of Japan, AIST, Japan 5Institute for Nuclear Physics, Johann Wolfgang Goethe University Frankfurt, Germany
6Leibniz Institute of Surface Modification, Germany 7Max-Planck-Institute for Plasma Physics, Germany
8Theoretische Chemie, Physikalisch-Chemisches Institut, Universität Heidelberg, Germany
【Abstract】When X-rays irradiate atoms or molecules, an inner-shell electron is ejected,
followed by an emission of an Auger electron producing a dication. If other atoms or molecules
surround the dication, one of the neighbors may donate an electron to the dication and release
energy, which can be transferred to ionize one of the neighbors at the same time. This process
is called electron transfer mediated decay (ETMD) [1]. The ETMD was considered as an
inefficient decay channel since it could not compete with other decay processes [2]. However,
in 2013, Stumpf et al. predicted that the ETMD provides an efficient neutralization pathway for
ions produced by Auger decay in NeKrKr trimers, even the ions are in ground state [3]. Here,
we show the ETMD of Ne dications produced after Ne 1s photoionization in Ne-Kr mixed
clusters.
【序】物質に X 線を照射すると光イオン化により内殻軌道の電子が放出され、引き続
きオージェ緩和によりオージェ電子が放出される [4]。その他、多くの低エネルギー電
子も放出される。このような低エネルギー電子は生体内で生体分子を壊す原因となり
得るため [5]、X 線照射による低 エネルギー電子の生成は生体分子の損傷機構として
重要であると考えられる。これまでは低エネルギー電子は光電子やオージェ電子の非
弾性散乱により生成されると考えられてきた。しかし近年、他の重要な過程が提案さ
れている。原子間クーロン緩和(interatomic Coulombic decay; ICD) [6]と電子移動型
電子緩和(electron transfer mediated decay; ETMD) [1]である。ICD と ETMD は励起状
態のイオンが近隣の原子や分子をイオン化させることで起こる緩和過程である。最近
Stumpf らにより基底状態イオンにより引き起こされる ETMD 過程が理論的に予想さ
れた [3]。基底状態からの EMTD が起こり得るとすれば、低エネルギー電子生成の機
構として重要な役割を果たすと考えられる。そこで、本研究では Ne-Kr 混合クラスタ
ーを標的として基底状態のNe 2価イオンから起こるETMD過程の観測を目的とした。
【実験方法】本実験は SPring-8のビームライン BL17SU にて行った。光子エネルギー
は Ne 1s イオン化しきいエネルギー(約 870 eV)より 8 eV と 18 eV 高い 878 eV と
888 eV に設定した。Kr のイオン化による効果を評価するため、しきいエネルギー以
下の 860 eV でも実験を行った。Ne-Kr 混合クラスターは、Ne と Kr を 60:1 の比で混
合したガスを、160 K まで冷却した直径 80 µm のノズルから 6 atmの背圧をかけて噴
出することにより生成し、超音速ビームとして真空チャンバーに導入した。クラスタ
ーへの光照射により放出されるイオンと電子を、イオン-電子運動量多重同時計測法
により計測した [7]。
【結果・考察】NeKrKr 3量体の場合には、Ne 1s 光イオン化に引き続き以下の過程が
起こる [3]。
NeKrKr + ℎ𝜈 → Ne+(1s−1)KrKr + e−(Ne 1s 光イオン化)
Ne+(1s−1)KrKr → Ne2+KrKr + e−(オージェ緩和)
Ne2+KrKr → Ne+Kr+Kr+ + e−(ETMD 緩和)
同様に本研究で標的とした Ne-Kr 混合クラスターでも、ETMD 過程が起こると 1つの
Ne 1 価イオンと 2 つの Kr 1 価イオンが生成されると予測される。イオンの飛行時間
スペクトルから Ne 1価イオンと Kr 1 価イオンを特定し、複数のイオン飛行時間の相
関から 3つのイオンが同時に生成されたことが確認できた。さらに 3つのイオン組と
同時計測した電子スペクトルから光電子の他に低エネルギーの ETMD 電子が生成さ
れていることを確認した。光電子収量に対する ETMD 電子収量は 0.7以上であり、光
イオン化が起こると効率よく低エネルギー電子が放出されることが明らかになった。
【参考文献】
[1] J. Zobeley, R. Santra, L. S. Cederbaum, J. Chem. Phys. 115, 5076–5088 (2001).
[2] K. Sakai et al., Phys. Rev. Lett. 106, 33401 (2011).
[3] V. Stumpf, P. Kolorenč, K. Gokhberg, L. S. Cederbaum, Phys. Rev. Lett. 110, 258302 (2013).
[4] W. Bambynek et al., Rev. Mod. Phys. 44, 716 (1972).
[5] B. Boudaïffa et al., Science. 287, 1658–60 (2000).
[6] L. S. Cederbaum, J. Zobeley, F. Tarantelli, Phys. Rev. Lett. 79, 4778 (1997).
[7] R. Dörner et al., Phys. Rep. 330, 95–192 (2000).