P-080 · 2019-05-19 · Case2 ) 0.00 6. おわりに...
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越美山系における深層崩壊に起因する土砂災害に対するハード対策の検討事例(その2)
国土交通省 中部地方整備局 越美山系砂防事務所 吉野睦,片桐知治,大森徹治,大前秀明 アジア航測株式会社 ○坂口宏,江口友章,冨田康裕
1. はじめに
越美山系砂防事務所管内では,根尾西谷川流域を対象に天然ダムタイプ(短期決壊型)の深層崩壊現象に対す
る事前のハード対策を検討し,不透過型堰堤(ローダム)を 1 基新設することで堰堤下流域の氾濫被害を大幅に低
減でき,かつ費用対効果も高いことを明らかにしている。本稿では、その後の検討として,根尾西谷川流域にお
ける深層崩壊対策として,新設堰堤の下流に位置する既設堰堤の取扱いや,深層崩壊に起因する土砂災害(土石
流・天然ダムの決壊)の外力に対する補強対策の考え方について報告する。
2. 検討対象堰堤および計画対象現象
本稿における深層崩壊対策の検討対象堰堤およ
び計画対象現象を以下に示す(図 1)。
① 検討対象堰堤
計画堰堤:西谷川第 2 砂防堰堤
既設堰堤:倉見砂防堰堤・根尾西谷川砂防堰堤
② 計画対象現象
天然ダムの決壊:最大規模×3 斜面
(根尾西谷川 20、根尾西谷川 15、根尾西谷川 34)
土石流:最大規模×2 斜面
(根尾西谷川右支渓 1110、根尾西谷川右支渓 413)
3. 安定性の照査
検討対象堰堤について,水系砂防計画の計画流量
(現行基準)に加え,深層崩壊発生時(天然ダム、
土石流)の安定性を評価した(表 1)。なお,既設堰堤(倉見砂防堰堤、根尾西谷川砂防堰堤)は,現況で満砂状
態にあること,計画施設(西谷川第 2 砂防堰堤)は,完成直後は未満砂であるが 30 年程度で満砂すると想定され
ることより,満砂時の安定計算も実施した(表 2)。安定計算結果を以下に示す。
① 既設堰堤(倉見砂防堰堤・根尾西谷川砂防堰堤)
倉見砂防堰堤は,深層崩壊(天然ダム)の外力以前に水系計画現象で不安定である。まずは,水系計画現象規
模に対応した補強が必要となる。根尾西谷川砂防堰堤は,水系計画現象では安定であるが,深層崩壊(天然ダム)
の外力に対しては不安定となる(極限設計とした場合は安定)。
② 計画堰堤(西谷川第 2 砂防堰堤)
深層崩壊(天然ダム)の外力に対し緩和設計であれば安定する(通常設計で安定する補強対策検討の余地有)。
また,土石流の外力に対しては,巨礫の衝突を考慮しない場合,越流部・非越流部ともに緩和設計であれば安
定する。
図 1 検討対象堰堤および計画対象現象
空虚 満砂 空虚 満砂 未満砂 満砂 巨礫衝突
越流部 ○ ○ ○ ○ ○
⾮越流部
越流部 ○ ○ ○ ○
⾮越流部
越流部 ○ ○ ○ ○ ○ ○
⾮越流部 ○ ○
9.5
14.5
深層崩壊対策
天然ダムタイプ ⼟⽯流タイプ
16.0倉⾒砂防堰堤
根尾⻄⾕川砂防堰堤
⻄⾕川第2砂防堰堤
既設
既設
計画
施設名 種別 堰堤⾼(m) 検討断⾯
⽔系計画
平常時(地震時)
洪⽔時
表 2 安定計算検討ケース
通常設計 緩和設計 極限設計
荷重の合⼒の作⽤線と堤底との交点が堤底の中央1/3(ミドルサード)以内
荷重の合⼒の作⽤線と堤底との交点が堤底の1/3以内(底⾯中央の2/3内)まで許
下流側つま先を超えない範囲まで荷重の合⼒線を許容
(B/6以内) (B/3以内) (B/2以内)
砂礫地盤 安全率:n=1.2(1.5)※ 安全率:n=1.1(1.3)※
(中間値)安全率:n=1.0(極限まで緩和)
岩盤全体安全率:n=4.0
(局所安全率:n'=2.0)全体安全率:n=3.6
(局所安全率:n'=1.8)全体安全率:n=3.2
(局所安全率:n'=1.6)
安全率:3(⻑期)(極限⽀持⼒×1/3以内)
安全率:2(短期)(極限⽀持⼒×1/2以内)※通常設計の1.5倍まで許容
地盤⽀持⼒=極限⽀持⼒地盤⽀持⼒
転倒
評価項⽬
滑動
表 1 緩和条件
根尾西谷川砂防堰堤
(既設)
15
20
34 1110
413
倉見砂防堰堤
(既設)
西谷川第 2 砂防堰堤(計画)
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4. 補強案の検討
4.1, 被害軽減額の確認
二次元氾濫シミュレーションを用い
て,天然ダム決壊時の氾濫被害の低減
に対する既存施設の影響を確認した。
既設堰堤 2 基を補強した場合の被害軽
減額 83.9 億円に対し,既設堰堤 2 基が
流出した場合の被害軽減額は 82.2 億円
で差は 1.7 億円(表 3)であり,既設堰
堤の安定性は氾濫被害の軽減には寄与
しないことが判明した。
4.2, 深層崩壊対応堰堤の選定
検討対象堰堤の制約条件(堆砂条件、地質
条件,工事用道路、付帯施設など)を整理し
た上で,深層崩壊対応堰堤の選定フローを検
討した(図 2)。
選定フローより,既設堰堤である根尾西谷
川砂防堰堤と倉見砂防堰堤は,事前のハード
対策は行わずに,深層崩壊の発生により万一
被災した場合には事後の修繕・復旧で対応す
る方針とした。
計画堰堤である西谷川第 2 砂防堰堤は,通
常設計で深層崩壊に対する事前の補強対策を
実施する堰堤として位置付けた。
4.3, 西谷川第 2 砂防堰堤の補強対策
事前の補強対策として,外的安定性の向上
(堰堤の増厚やアンカー補強等)や内的安定
性の向上(袖部の鉄筋補強等)が考えられるが,本検討では,基幹となる“本堰堤の本体の損壊を許容しない”
対策を優先し,堤体の増厚を実施することとした。また,全国で被災した堰堤の事例収集結果より,本堤基礎の
洗掘事例が最も多いことから,侵食対策(護床工)も事前対策として実施することとした。
5. 費用対効果による確認
費用対効果分析は,「砂防事業の費用便益分析マニュアル(案)」を踏まえ直接被害抑止効果(一般資産被害、
農作物被害、公共土木施設等被害)及び間接被害抑止効果(営業停止被害、応急対策費用)を計上した。
費用対効果分析の結果,事前対策として選定した「堰堤の増厚+護床工」は Case4 に該当し,B/C は 1 以上
を確保できていることを確認した(図 3,表 4)。
6. おわりに
本検討により,根尾西谷川の深層崩壊対策として,計画施設の補強対策や既設施設の位置づけを明確化するこ
とができた。今後は選定した補強対策案の設計段階への移行とともに,事業化のために費用対効果の精査が課題
である。
深層崩壊に対する事前の
改築・補強対策を検討
(通常設計)
被災後の修繕・復旧で対応深層崩壊に対する事前の
改築・補強対策を検討
(緩和設計)
既設?新設?
既設 新設
安定性OK
通常の土石流・
水系砂防上の安定性
安定性NG
深層崩壊被災リスク
あり なし
被災後の修繕・復旧で対応
深層崩壊外力に対する安定性
<通常設計>
高い
補強・改築の制約条件
あり,著しいなし,少ない
深層崩壊対策は検討しない
安定性OK(通常設計)安定性NG(通常設計)
深層崩壊対策は検討不要改築・補強対策の実現性
保全対象の重要度
費用対効果
※どの程度条件を緩和する
かはその都度判断
低い
安定性OK(緩和設計※) 安定性NG(緩和設計※)
深層崩壊外力に対する安定性
<緩和設計※>
通常の土石流対策・水系対策の改築検討
表 3 氾濫被害の低減に対する既存施設の影響
ケースNo.
西谷川第2砂防堰
堤
根尾西谷川砂防堰堤
倉見砂防堰堤
①事業を実施
しない場合
(現況施設時)
②事業を実施
した場合
(深層崩壊
対策完了時)
③被害軽減額(①-②)
B1 OK NG NG 392.2 309.9 82.2
B2 OK OK NG 392.2 309.0 83.1
B3 OK NG OK 392.2 305.4 86.7
B4 OK OK OK 392.2 308.2 83.9
被害額 (億円)検討ケース
差
億円
1.7
図 2 深層崩壊対応堰堤の選定フロー
図 3 費用対効果分析結果
表 4 費用対効果分析ケース ケース 内容
Case1水系計画対応堰堤(事前対策無し)※緩和設計を許容
Case2天然ダム対応堤体断面
(決壊流量 10,741 m3/s時)
Case3土石流対応堤体断面
(土石流ピーク流量 1,940 m3/s時)
Case4天然ダム対応堤体断面+護床工
(決壊流量 10,741 m3/s時)
Case5天然ダム対応堤体断面+護床工+護岸工
(決壊流量 10,741 m3/s時)
Case6土石流対応堤体断面+袖部鉄筋補強
(土石流ピーク流量 1,940 m3/s時)
Case7天然ダム対応堤体断面
(決壊流量 7,500 m3/s時)
Case8天然ダム対応堤体断面
(決壊流量 5,000 m3/s時)
1.231.14 1.20
1.050.97
1.19
1.020.87
0.00
0.20
0.40
0.60
0.80
1.00
1.20
1.40
1.60
B/C1 B/C2 B/C3 B/C4 B/C5 B/C6 B/C7 B/C8
費用効果便益比
(B
/
C)
7500m3/s
5000m3/s
侵食防止工 天然ダム流量低減
護床工 護床工
護岸工
水系
計画
対応
天然
ダム
タイプ
対応
土石流
タイプ
対応
鉄筋
補強
選定案(B/C=1.05)
Case1 Case2 Case3 Case4 Case5 Case6 Case7 Case8
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